2015年10月05日コラム

藏内・久良知家の銅像広場

旧藏内邸は今年3月10日付で、庭園や建物など屋敷地全体が国の名勝に指定されましたが、旧藏内邸の価値は庭園と建物だけではなく、大正時代の当主、藏内保房が同時に整備した貴船神社と参道、一族を顕彰する銅像広場(写真)を含めた周辺全体にあります。
これら全体を見ていくと、藏内保房が建築に際して抱いた故郷と一族への想いが強く感じられます。まず故郷の自然と宗教の関係です。東の山並みと城井川のせせらぎの前の大鳥居をくぐり長い参道を進み、龍源川に架かる大きな石橋を渡り、貴船神社(水の神様)を拝みます。そして壮麗な邸宅が広がり、西の山並みの一画には一族の偉人三名、久良知重敏、久良知政市、藏内次郎作の銅像が田園風景を見下ろすように建てられ、これらが谷の東西を一直線上に並ぶことはとても重要です。
3人は藏内炭鉱の先駆者であり、保房にとっては妻の祖父と父、次郎作は育ての親です。銅像は戦争で供出され今はありませんが、台座のレリーフには筑豊の炭鉱と積出港の風景に採掘で使うツルハシとカンテラが描かれ、別のレリーフには上深野の農村風景に稲穂と鎌が描かれ、正面の陶板文字の銘板に3人を讃える文が書かれています。
これら藏内氏の生業、生活、信仰の空間全体が、その繁栄の証として整備され、造形的に秀でた意匠や工法、材料でまとめられていることは重要で、現在、学術調査を行い、来年度には国指定名勝への追加申請を計画しています。

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